ご挨拶

ご承知のように、2013年に刊行されたDSM-5においてADHDの除外診断からASDが外されました。今後、ADHDの診断が、これまでよりも増加する可能性があると考えています。それまでPDDと診断されていてADHDの診断が保留されていたケースで、あるいは、新規にASDと診断されるケースで、いずれもADHDの併存診断が可能となるからです。ADHDは、まだまだ発達障害診療の場でのトピックの一つであり続けることと思います。

こうした情勢の中で、今回、日本ADHD学会第7回総会を開催させていただくこととなり、総会のテーマを『ADHDにおける学習問題を考える』とさせていただきました。ADHDにおける学習問題は、大きく3つに分けて考えることができるように思われます。一つは、学習に影響する他の発達障害の併存の問題です。そうした他の発達障害としては、限局性学習症(SLD)、ASD、境界線知能や知的発達症(IDD)が主なものとなるでしょう。SLDは、学習スキルの習得・習熟の問題が基本ですので、当然、学習の問題が出現してきます。ASDは、言葉の理解や推論の問題が学習に影響することが少なくありません。知的発達レベルに比してADHD特性が著しい場合、特に軽度のIDDの場合はADHDの診断が可能です。ADHD患児で境界線知能や軽度IDDを併存することは稀ではなく、それぞれの知的発達レベルにより学年が進むにつれて学習の問題が生じる可能性が高くなってきます。二つめは、ADHD特性自体が学習に影響を与える場合です。不注意特性が著しい場合、授業中の教師の話を半分しか聞いていないかもしれず、それだけ授業の効率が悪くなります。家庭学習においても、注意転動性が強ければ、宿題を終えるまでに時間がかかり、学習効率がやはり低下することが考えられます。三つめは、前述した2つの問題による学習困難状況、学業成績の低下、周囲からの注意や叱責の増大などが背景となって生じる学習意欲の低下の問題です。また、ADHDの集中力は、本人の意欲・関心の影響を強く受けますので、こうした学習意欲の低下は、ADHDとしての不注意問題をさらに増強し、学習状況に悪影響を与えることも考えられるでしょう。

ADHDにおける学習問題に関しては、このようにいろいろな状況が考えられるにもかかわらず、これまではSLD併存の問題以外はあまり議論されることが少なかったように感じています。学習、特に教科学習の状況は、子どもたちの達成感や進路選択に大きな影響を与えます。ADHD特性があっても、本来の能力を発揮できるよう、私たちが何ができるのか、今回の学会で活発に議論いただければと願っております。

今回の学会では、ADHDと学習に関連する演題が集まることを期待しておりますが、もちろん、学習問題以外の演題も歓迎いたします。たくさんの方々から演題応募をいただき、また、学会当日もご参加いただけますことをお願いいたします。

日本ADHD学会第7回総会
会長 宮本信也
(筑波大学)